おもいでばなし

妊娠〜出産期について徒然と

覚えているうちに出産当日のことを

 

2017年10月29日。

いつもの日曜日の夜と同じように、鉄腕ダッシュ〜世界の果てまでイッテQ〜行列のできる法律相談所を流し見する中、尋常じゃないほどの胎動を感じる。

腕や踵がにゅるにゅる動いて臓器をゆっくりと押し上げていくのが今までの胎動だとしたら、この日の胎動は暴れ狂って臓器を殴る蹴る押し出すという感じ。

妊娠後期の体調不良に日々苦しんでいた私は、胎動までもがこんなに苦しいなんて!早く出したい!という衝動に襲われ、鉄腕ダッシュを見ながらスクワットをした。

 

後期つわりで寝転ぶと咳が出て嘔吐する・眠りにくいという症状に悩まされていた私は、一周回って「別に明日も休みだし無理に寝なくてもいいか」という精神で生きていたため、その日も深夜まで起きていた。

たぶん2ちゃんのまとめサイトで不倫ネタとかを見ていたんだと思う。

そんな感じで起きていた深夜3時半頃、ぷちっと音がなる。

結構軽めの破裂音だった。

確実に体の中から聞こえたような気がする。

トイレに行って確認。少量のピンク色の水を確認。

あれ?これ破水っぽいな?でもおしるしか尿もれの可能性もあるな?

もし破水だったら寝てないし完徹で出産はキツイな〜と思い、寝ようと思った。

んだけども。

さすがに出産を数時間以内に控えておちおち眠っていられるほど心臓が強くない。

気になってくるのは家事のことである。

当時は2週連続で大型台風がきていて、その影響で洗濯物が乾かずめちゃくちゃ溜まっていた。

午前5時半、洗濯機を回し始める。脱水がめちゃくちゃ長いモードで、1時間くらいかかるやつ。

何度かトイレに行ったがやっぱり少量の水が出てて破水っぽいので産婦人科に電話してみる。

「破水したっぽいんですけど、尿もれかもしれない。陣痛はない」

「じゃあ様子見て朝イチで病院に来てください」

「はーい」

電話を切ってからちょっとずつお腹が痛くなってきた。あ、これやっぱり破水だったんだ。

もう一度産婦人科に電話。

「これ破水です、お腹いたい」

「7時に病院来てください」

 

朝6時、夫を起こす。

「破水しました。朝イチで病院行くよ」

「もうちょい早く起こせよ!」

仲良くロールキャベツを食べて、なかなか止まらない洗濯機を無理やり停止させて洗濯物を干す。洗濯物の量がやばい。部屋干しの限界超えてる。

洗濯物干してるとたまに陣痛がくる。生理痛のすっごいのが10秒間くらい通りすぎる感じ。

この時5分間隔。

「おおお、これが陣痛か、意外と余裕じゃーん」

完徹ハイテンションのアラサー、この時はまだ陣痛の本当の痛みを知らない。

午前7時前に意気揚々と車に乗り込み、夫とともに謎のテンションで産婦人科に到着。

このK山クリニックが私的にもう二度と使いたくない気持ちでいっぱいなので愚痴も交えつつ書いていきたい。

 

到着してすぐに分娩用の衣類に着替える。

子宮口の確認のため分娩台に上がると同時に大量破水。車でいっぱい出なくてよかった…。

子宮口は確か1センチ。ほぼ開いてなかった。

陣痛室に移動……かと思いきや、先客が居るため謎の部屋に移動。

ほんと謎の部屋だった。

クローゼットだったんじゃない?って感じの部屋の形だったんだけど、やっぱりクローゼットだったのかな?

歪な形の狭い部屋にベッドとモニターとテレビが置かれていて、10月末の日差しが窓から入り込んでめっちゃくちゃ暑いんだけど、分娩室に入るまで終始そこで待機でした。

 

9時半、陣痛促進剤を飲み始める。1時間おきに1錠ずつ飲むらしい。

この時はまだ余裕。夫と二人でテレビを見ていたような。

 

看護師は、陣痛促進剤を渡し子宮口の確認をするとすぐに退室してしまう。

冷たいなあ、でもまだあんまり陣痛がひどくないからかな居てくれないのかな?と思っていたけど、この対応最後まで変わりませんでした。

当時コウノドリの2期が放送されていたため、まああの世界は確かに理想すぎるんだけど、それにしてもあまりの放置っぷりにちょっと不信感。

1時間に1回子宮口チェックするだけ。完全放置わろた…。

 

10時頃、私の母親が到着。

破水した、病院へ行く、生まれたら連絡するとだけLINEしていたんだが、心配で来てくれたみたい。

別にいいのに~と来た瞬間は思ってしまったが、来てもらえてよかった。

来てもらえていなかったら、私と夫はこの完全放置の病院で、陣痛の逃し方もわからず、どうなっていたかわからない。

 

10時半頃、陣痛促進剤2錠目。結構痛いが全然子宮口まだ3センチ。

「あ~、まだまだですね」と言い捨て看護師退室。

結構痛いのにどうしたらいいかわからない私と、それを見ているしかない夫に、母が背中の摩り方をレクチャーし始める。

やばい。めちゃくちゃ楽。これが神か。

この2ヶ月前にも姉が出産したばかりで、姉の出産にも立ち会っていた母は、そういう対応にめちゃくちゃ慣れていたのだ。

すごいラッキー!と共に、やっぱりこの病院おかしいよね?と思う。

 

11時頃、もうこの頃になるとめっちゃくちゃ痛い。

母のすすめでベッドに寝ころぶ姿勢から起き上がり、枕を抱えてあぐらで座る。

赤子の頭が下に降りてくるのを促し、お産をすすめるためだ。

夫、私が要求するままに背中をさする。

私は中学・高校で吹奏楽をやっていたんだけれども、その割にリズム感も音感も身につかなかったんだが、ここで人生で初めて吹奏楽経験が役立つ。

なんと息が上がらないのだ。

呼吸のコントロールがものすごく冷静に出来た。痛いときは一瞬息を止めて、長く細く息を吐いて、って。

おかげでかなり冷静でいられたので精神的にはすごく楽だった。

 

11時半、陣痛促進剤3錠目。子宮口6センチ。

「もうちょっとですね」と言い残し退出していく看護師。

もうちょっと働けよ!

文句を言う元気もないが、ここまで来ると手を借りるのも悔しくなってくるので無理やり体を動かしてトイレに自力で行く。

この頃から陣痛の間に意識が飛び始める。無理もないよね完徹だし。

陣痛はたぶん1分間隔くらいだったんだけど、合間に眠っていたようだ。

 

12時、昼食が運ばれてくる。

食べられるわけがないので夫に食べてもらう。けど夫も半分以上残していた。

そりゃ食欲なくなるよね…。

テレビではバイキングをやっていた。内容を見る余裕はないんだけども、坂上忍が苦手なのでヒルナンデスがいいなあ…と思いながら陣痛に耐えていた。

 

12時半、看護師の子宮口チェック。ほぼ全開。

もうすぐ出産できる…!もうちょっとでこの苦しみから解放される…!

と思いきや、看護師はもにょもにょとお茶を濁すような感じで何も言わない。

待機していた部屋と分娩室が廊下を挟んで向かいだからなんとなく様子がわかるのだが、どうやらこの病院に一部屋しかない分娩室にも先客がいるので待機らしい。

察せられるけれどもね、せめてそういう説明ぐらいはちゃんとしてくれよ。

「もう無理…!」と若干演技をまじえつつ鬼気迫る感じで看護師に訴えてみるが、看護師は退室して行った。

まあ出産において看護師には何も出来ないから仕方ないんだろうけども。

「なんでこんなに放置なんだよ!」とブチ切れながら陣痛に耐える。

 

13時10分頃、分娩室の先客が出産。

13時半過ぎに分娩室移動。

分娩台に上がる。

何故か部屋の中に赤ちゃんのか細い泣き声が響いている。

「え…なんですかこの状況…」

まさか私の赤子はお腹の中で泣いているのだろうか。子宮口開いてるから聞こえるのかな。

「あなたの頭の上でさっきの赤ちゃんが乾かされているんです」

すごい状況だ……。もう何も言葉にならない。

 

言われるままに3度ほどいきむ。

かなり赤ちゃんが下に下がってきているんだけど、先生が来ないので会陰を切って貰えず生まれない。

ここでまた先生がなかなか来ないんだよ。ほんとイライラしたなあ。

無駄にいきまされること数回を経て、辛すぎてどす黒い謎の液体を嘔吐した頃に、ようやく先生到着。

ちょっきん。と同時に入室してくる旦那。

そういえば立ち合い出産希望していたんだった。

一応立ち合い出産っぽく旦那の手を握ってみる。

その間にもずるずると出てくる赤子。出てくる痛みはほとんどない。

 

2017年10月30日 13時58分、女児出産。

 

可愛い……とかではなくて、本当に人間が入ってたんだ…という感じだった。

なんか紫だったし、顔も手足も浮腫んでふにゃふにゃ。

完徹な上に出産でエネルギーを使い果たしているからその時はわが子を見ても感動も何もなく、「終わった…」という感じ。

産卵が終わると同時に死ぬ生き物の気持ちがわかった気がした。

 

その後分娩室で2時間赤子を乾かしながら、私は分娩台の上で待機。

赤子を乾かすライトの光が強いので、部屋中がめちゃくちゃ暑い。

旦那も私も脱水症状になりかける。

私、たまに寝てたけど、あれって意識失ってたんじゃないかな…。

赤子は泣きもせずにずっと泡を吐きながら眠っていた。

産まれる前に用意していた名前があったんだけど、その名前がなんだか顔に似合わない気がして、分娩室の中で夫と名前を考え直した。

響きだけはその場で決めて、漢字が決まったのは産後3日目だった。

「よろしくね、〇〇ちゃん」

声をかけてみたけれど、娘はやっぱり泡を吐きながらすやすや眠っていた。

 

 

 

2ヶ月前に出産した姉から、「出産は盛大な排便である」という教訓を聞いていた。

自分の出産が終わった今、私もその教訓を改めて噛みしめている。

ほんと、出産は大がかりな排便だよ。